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札幌高等裁判所 昭和25年(う)762号 判決 1951年2月26日

控訴人 被告人 浅川知三郎

弁護人 宮沢純雄

検察官 木暮洋吉関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人宮沢純雄の控訴趣意は別紙記載のとおりである。

第一点について考へるに、刑事訴訟法第三百十九条第二項によつて自白の補強証拠を要する事項は同法第三百三十五条第一項に規定するところの罪となるべき事実の範囲に限るものであつて、認定の犯罪事実がさきに確定裁判を経た罪と刑法第四十五条後段の併合罪となる場合に、その確定裁判を経た犯罪の存在する事実は罪となるべき事実ではないから、これを認定するには被告人の自白のみを以てしても、それは刑事訴訟法第三百十九条第二項に違反するものではない。従つて原判決は所論のように法令の適用に誤りがあるものではない。

次に第二点について考へるに、被告人が輸送し又は輸送を委託した小豆は合計十一石八斗に及ぶのであって、控訴趣意援用の諸事情を考慮しても尚被告人に対し罰金四万円及び六万円に処した原判決の量刑は決して重きに過ぎるとは信ずるに足りないのである。

よつて本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却すべきものとし、主文の通り判決する。

(裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 河野力)

弁護人宮沢純雄の控訴趣意

第一点第一審判決は判決に影響を及ぼすべき被告人に不利益な事実を被告人の供述だけで認定した違法がある

第一審判決は証拠の部の末尾に「尚被告人は昭和二十四年六月二十一日小樽簡易裁判所に於て食糧管理法違反罪により罰金二万円に処せられ該判決は同年七月十七日確定したのであつてその事実は被告人の当公判廷における供述により明かである」と記載してある通り被告人の食糧管理法違反の前科を認め判示第一の認定事実はこの前科と併合罪の関係にありとして罰金四万円を言渡したものであることは適条の部の説明によつて明かである

しかして第一審判決は右の前科は「被告人の当公廷における供述により明かである」として他に証拠を挙げることなく専ら被告人の供述のみを証拠として認定したのであるがこれは刑事訴訟法第三百十九条第二項の趣旨たる自白即ち自己に不利益な事実の承認が唯一の証拠であるときはこれを有罪の証拠とできないという規定に反し被告人の供述だけを証拠として被告人に不利益な事実を認定した違法がある

このように刑事訴訟法第三百十九条第二項を遵守せず又は正当に適用しない場合は刑事訴訟法第三百八十条の法令の適用に誤りがあるときに該当すると解すべきものであるが第一審判決はこの法令の適用を誤まつて認定した前科と第一の事実とを併合罪として刑法第四十五条後段によつて処断したものである以上法令の適用の誤りが判決に影響を及ぼしたことは明かであるから第一審判決は右第三百八十条によって破棄せらるべきものである

第二点第一審判決の量刑は不当である。

第一審判決は第一の事実につき罰金四万円、第二の事実につき同六万円の刑を科したのであるが(一)被告人は自ら進んで本件所為に出たのでなく取引の相手方たる中井フク、吉田覚二から頼まれつい引受け回を重ねたものでこのことは第一審における第四回公判調書における被告人の供述に「私から積極的に小豆を送つたのではなく取引先の方より次々に送れと云ってきたのでこの度のようなことをしたのです」とあることによつても明かであつて頼まれて断り切れなかつたという人情の弱点から出た行為であるから情状必ずしも重き場合には該当せずむしろ酌量の余地があること(二)本件行為によって被告人は利益を得た事実なく却て多大の損失に帰したものであるこのことは第四回公判調書の記載中裁判官の「利益はどの位あつたか」との問に対し被告人の答として「中井フクのところからは前金で貰つて小豆を送ったのですが吉田覚二のところからは先に小豆を送つて後に代金を支払つて貰うことになつていたが小豆を送つても同人は一銭も支払つてくれず現在でも吉田から十五万円位とり分があり総体的に見て十六万円位の欠損をしたのです」とあること、第一審に提出された証第六号吉田覚二より被告人宛葉書により明かな通りであつて被告人は本件取引によつて不当な利益を得た事実なく却て約十六万円の損失を蒙つたものであるから量刑に当つてはこの点も斟酌せらるべきである以上の点から考えると自ら進んでやつたことではなく又これによつて多額の損失を受けた被告人の本件所為に対し計十万円の罰金はあまりにも重きに失すると信ずる結局第一審判決は刑事訴訟法第三百八十一条に該当する不法があるから破棄の上御裁判所において何卒前記事情につき特に御賢察を賜はり寛大なる御裁判を仰ぎ度く切望する

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